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フリーランスエンジニアのための業務委託契約書ガイド:新法・交渉・トラブル対策 

フリーランスエンジニアのための業務委託契約書ガイド:新法・交渉・トラブル対策 



フリーランスエンジニアとして活躍する皆さんにとって、技術力は最大の武器です。しかし、どれだけ優れたコードが書けても、「契約」でつまずいてしまうことがあります。

「この内容でサインして大丈夫なのか?」「報酬はちゃんと支払われるのか?」そんな不安を抱えたまま仕事を始めた経験はありませんか?実際、契約書の内容をよく確認しないまま始めてしまい、「終わらない無償修正対応」「支払い遅延・未払い」などのトラブルに巻き込まれるエンジニアも少なくありません。

この記事では、契約書を味方につけて、予期せぬリスクからあなたのスキルと時間を守るための具体的な知識を、わかりやすく解説します。2024年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称:フリーランス新法)」のポイントも踏まえ、あなたのフリーランスキャリアをより安定させるための実務的なヒントを提供します。

これからのフリーランスキャリアに必要な「契約力」を一緒に身につけましょう!


1. はじめに:契約書はエンジニアの「技術力」を守る最強の盾

フリーランスエンジニアにとって、コードを書く技術力と同じくらい重要なのが「契約リテラシー」です。多くのエンジニアが「契約書は難しそう」「面倒だ」と感じ、内容をよく確認せずにサインしてしまいがちかもしれません。しかし、それが原因で「終わらない無償の修正対応」や「正当な報酬が支払われない」といったトラブルに繋がるケースも少なくありません。なぜ契約リテラシーがエンジニアの「技術力」を守る最強の盾となるのか、その理由を掘り下げていきます。

1.1 「まあ大丈夫だろう」が招いた、無報酬での追加開発

「このくらいなら大丈夫だろう」と、契約書の内容を深く確認せずに業務を始めてしまうことはありませんか?しかし、業務範囲が曖昧なまま進めると、後から「これもお願いできますか」と無償での追加開発を求められるケースも考えられます。結果として、想定以上の時間や労力を費やし、本来得られるはずだった報酬を失ってしまう可能性もあるのです。

1.2 契約リテラシーは、あなたの市場価値を高めるスキル

契約リテラシーは、単にトラブルを避けるためだけのものではありません。契約内容を正確に理解し、必要に応じて交渉できる能力は、プロフェッショナルとしての信頼性を高めます。これは、クライアントとの健全な関係を築き、結果としてあなたの市場価値を高める重要なスキルの一つと言えるでしょう。

1.3 この記事を読めば、契約書のどこをどう見れば良いかが分かる

この記事では、フリーランスエンジニアが業務委託契約書を受け取った際に、特に注意して確認すべきポイントを具体的に解説します。基本的な項目から、エンジニア特有のリスクが潜む条項まで、一つずつ丁寧に見ていきましょう。この記事を読み終える頃には、契約書に対する不安が和らぎ、自信を持って業務に取り組めるようになるはずです。

2. まずは基本から!業務委託契約の「準委任」と「請負」の違いとは?

フリーランスエンジニアが結ぶ業務委託契約には、主に「準委任契約」と「請負契約」の2種類があります。この違いを理解することが、契約書を正しく読み解く第一歩です。自分がどちらの形態で契約するのかを正しく認識し、契約内容との間にズレがないかを確認することは非常に重要です。

2.1 成果完成義務のない「準委任契約」(遂行対価型)

準委任契約は、特定の業務の遂行そのものに対して報酬が支払われる契約形態です。例えば、システム開発における調査や設計、コンサルティング業務、システム保守や運用などがこれに該当します。成果物の完成義務はなく、作業時間やプロセスに対して報酬が発生することが一般的です。

2.2 成果物の完成に責任を負う「請負契約」

請負契約は、特定の成果物を完成させることに対して報酬が支払われる契約形態です。例えば、Webサイトの構築やアプリケーションの開発など、具体的な完成品を納品する義務が生じます。成果物の品質や納期に対して責任を負う点が、準委任契約との大きな違いと言えるでしょう。

2.3 なぜこの違いを知っておく必要があるのか?

この二つの契約形態の違いは、報酬の発生条件や、バグ修正などの責任(瑕疵担保責任)の範囲に大きく影響します。準委任契約では、成果物の不具合に対する責任が限定的である一方、請負契約では、完成した成果物に不具合があった場合の修正義務が生じることが一般的です。ご自身の業務内容と契約形態が合致しているか、必ず確認するようにしましょう。

3. フリーランス保護新法で何が変わった?実務で押さえるべきポイント

2024年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称:フリーランス新法)」は、フリーランスとして働く私たちにとって強力な追い風となる可能性があります。これまでグレーゾーンだった発注者との力関係を是正し、取引の透明性を高めることを目的としています。この法律を後ろ盾に、私たちはより対等な立場で契約交渉に臨めるようになったと言えるでしょう。

3.1 新法の目的:取引の透明化とフリーランスの保護

書面等による取引条件の明示

業務委託する際は、フリーランスの給付内容、報酬の額、支払期日などを書面または電磁的方法(メール・チャット等)で直ちに明示しなければなりません(口頭のみは不可、同法第3条)。 また、フリーランスが求めた場合は遅滞なく書面交付が必要です。ただし、フリーランスの保護に支障を生じない場合には書面交付が不要となる例外があります(例:フリーランスが電磁的方法での明示を希望し既に実施している場合/取引がネット完結で定型約款が常時閲覧可能な場合/既に書面交付済みの場合)。

※以下は「書面等による取引条件の明示」(第3条)における明示すべき事項です。

  • 業務委託事業者および特定受託事業者の名称 →発注事業者とフリーランス、それぞれの名称。ニックネームやビジネスネームで構いませんが、商号、氏名もしくは名称または番号、記号等であって業務委託事業者および特定受託事業者を識別できるものを記載する必要があります。
  • 業務委託をした日 →発注事業者とフリーランスとの間で業務委託をすることを合意した日
  • フリーランスの給付の内容 →フリーランスにお願いする業務の内容

給付の内容には、品目、品種、数量(回数)、規格、仕様などを明確に記載する必要があります。また、フリーランスの知的財産権が発生する場合で、業務委託の目的である使用の範囲を超えて 知的財産権を譲渡・許諾させる際には、譲渡・許諾の範囲も明確に記載する必要があります。

  • 給付を受領する日/役務の提供を受ける日(期間を定める場合はその期間) →いつまでに納品するのか、いつ作業をするのか
  • 給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所 →どこに納品するのか、どこで作業をするのか
  • フリーランスの給付の内容について検査をする場合は、その検査を完了する期日
  • 報酬の額および支払期日 →具体的な報酬額を記載することが難しい場合は算定方法でも可能です。 支払期日は、具体的な支払日を特定する必要があります。

フリーランスの知的財産権の譲渡・許諾がある場合には、その対価を報酬に加える必要があります。 フリーランスの業務に必要な諸経費を発注事業者が負担する場合、「報酬の額」は諸経費を含めた総額が把握できるように明示する必要があります。

  • 現金以外の方法(手形・一括決済方式・電子記録債権・資金移動業口座 等)で支払う場合の必要事項(例:手形なら金額・満期 等)

【引用】

報酬の支払期日の設定・期日内の支払(第4条)

支払期日は給付を受領した日から60日以内の「できるだけ短い期間」で定め、定めた期日は必ず守る必要があります。電子・手形等の支払方法を現金以外にする場合は、その必要事項の明示も必要です。

中途解除等の事前予告・理由開示(第16条)

6か月以上の継続的業務委託を解除/不更新する際は、原則30日前までに予告が必要です(例外あり)。また、フリーランスが請求したときは遅滞なく理由を開示します。更新で6か月以上に達するケースも含まれます。

【出典・参考】

3.2 下請法との違いと、あなたにとってのメリット

フリーランス保護新法は、下請法が適用されない小規模な取引にも適用される点が大きな特徴です。下請法は資本金要件と取引内容要件で適用範囲が限定されますが、新法は資本金に関わらず、従業員を使用しない事業者(特定受託事業者)との業務委託全般を保護対象としています。これにより、これまで保護されにくかったフリーランスも、より安心して業務に取り組めるようになるでしょう。

3.3 フリーランス新法を交渉に活かす具体フレーズ集

フリーランス新法は、「知っておくと安心」というお守りではなく、実務でちゃんと使ってこそ意味があります。ここでは、第3条(条件明示)、第4条(支払期日)、第16条(中途解除)を前提にした、実際にそのまま使える交渉フレーズ例を紹介します。

※そのままコピペしても良いですが、実際の案件内容や相手との関係性に合わせて調整してください。

例1:条件を書面でもらいたいとき(第3条ベース)

いつもお世話になっております。〇〇案件の件、ありがとうございます。
念のため確認なのですが、本業務の内容や報酬、支払期日等について、書面またはメールで条件を整理いただくことは可能でしょうか。
2024年11月施行のフリーランス新法でも、取引条件の明示が義務化されていますので、お互いの認識ズレを防ぐためにも、文面で揃えておけると安心です。

例2:支払サイトが長すぎるとき(第4条ベース)

契約書案を拝見しました。「納品後90日支払」となっている点について、ご相談させてください。
フリーランス新法では、給付日から60日以内のできるだけ短い期間で支払期日を定めることが求められており、フリーランス側のキャッシュフローの観点からも、可能であれば「30日以内」で設定いただけないか検討いただけますでしょうか。
御社の運用上のご事情もあるかと思いますので、難しい場合は60日以内への短縮など、代替案も含めご相談できれば幸いです。

例3:長期案件の中途解除ルールをはっきりさせたいとき(第16条ベース)

継続案件として6か月以上を想定していることから、途中での契約終了条件についても、あらかじめ整理させてください。
フリーランス新法では、6か月超の継続業務委託の場合、中途解除や更新しない場合には原則30日前の予告や理由の開示が求められています。
本契約についても、「やむを得ない事情を除き、少なくとも30日前に書面で通知する」といった形でルールを明記しておけると大変助かります。

例4:口頭合意で走らされるのを防ぎたいとき

スケジュール優先で口頭ベースでスタートいただくこと自体は可能なのですが、フリーランス新法の観点からも、条件面は必ずメールか書面で整理しておきたいと考えています。
着手前までに、最低限「業務範囲・報酬・支払期日・期間」の4点だけでも文面でご共有いただけますと幸いです。

4. 契約書レビューの第一歩!必ず確認すべき「9つの必須項目」

契約書を受け取ったら、まずは以下の9つの基本項目が明確に記載されているかを確認しましょう。これらは取引の根幹をなす部分であり、曖昧な点があれば必ず契約前に質問・修正を依頼する必要があります。以下の内容に対して、抜け漏れがないか一つずつ確認する習慣をつけることが大切です。

4.1 当事者と業務範囲:誰が、何を、どこまで行うのか

契約書には、契約の当事者(クライアントとあなた)が明確に記載されているかを確認しましょう。また、最も重要なのが「業務範囲」です。具体的にどのような作業を行うのか、どこまでが業務に含まれるのかが明確に記載されているかを確認してください。業務範囲が不明確だと、後から次々と作業が追加される「仕様変更地獄」に陥る危険性も考えられます。

4.2 報酬と支払い条件:いくらで、いつ、どう支払われるのか

報酬額が具体的にいくらなのか、消費税は含まれているのか、源泉徴収の対象となるのかが明記されているかを確認しましょう。特に、消費税の扱いについては、後からトラブルにならないよう事前に確認しておくことが重要です。報酬の計算方法(月額固定、時間単価、成果報酬など)も明確にしておきましょう。なお、3章のとおり支払期日は受領日から60日以内の「できるだけ短い期間」の日とする必要があります。

4.3 契約期間と更新・終了:いつからいつまで、どう終わるのか

契約期間がいつからいつまでなのか、そして契約の更新条件や終了条件が明確に記載されているかを確認してください。自動更新の有無や、途中解約の条件、解約予告期間なども重要なポイントです。なお、継続的な業務委託が6か月以上に及ぶ場合、解除や更新をしない場合には少なくとも30日前の予告が必要となるケースがあります(例外あり)。 ご自身のキャリアプランに合致しているか、慎重に確認することをおすすめします。

4.4 納品と検収フロー:成果物をどう渡し、どう承認されるのか

成果物の納品方法や、クライアントによる検収(成果物の確認・承認)のフローが具体的に記載されているかを確認しましょう。検収期間が長すぎたり、検収基準が不明確だったりすると、報酬の支払いが遅れる原因になることもあります。スムーズな業務遂行のためにも、このフローは明確にしておくことが望ましいです。

4.5 知的財産権の帰属:あなたの成果物は誰のものになるのか

成果物の権利が「誰に帰属するのか」は、契約トラブルで特に揉めやすいポイントです。 原則として、開発したコードやデザイン、システムなどの著作権は、創作した本人(=フリーランス)に自動的に発生・帰属します。ただし、例外も存在します。たとえば、他者と共同で開発した場合や、企業側の従業者として業務の一環で作成した場合(いわゆる「職務著作」)には、権利の帰属先が変わる可能性があります。

そのため、委託者側に成果物の権利を移転したい場合や、逆に自分の権利を守りたい場合は、契約書で明確に取り決めておくことが重要です。 また、ライブラリやツールなど、将来的に他の案件でも再利用したい要素がある場合は、事前にクライアントと相談し、どの部分を誰が使えるのかを整理しておくことをおすすめします。

4.6 秘密保持と実績公開:どこまで話してよく、実績として使えるのか

クライアントの機密情報を扱うため、秘密保持義務は多くの契約書に含まれています。これは当然のことですが、開発した成果物を自身のポートフォリオや実績として公開できるかどうかも確認しておきましょう。公開範囲や時期について、事前にクライアントと合意しておくことが、後のトラブルを防ぐ上で重要です。

4.7 責任の範囲と限定:万が一のトラブル時、どこまで責任を負うのか

万が一、業務遂行中に損害が発生した場合の責任の範囲や、損害賠償の上限額が明確に記載されているかを確認しましょう。フリーランスにとって、過度な責任を負うことは大きなリスクとなります。責任限定条項が適切に設定されているか、必ず確認するようにしてください。

4.8 契約解除の条件:どんな時に契約が解除されるのか

契約解除の条件が、クライアントとあなた双方にとって公平な内容になっているかを確認しましょう。一方的にクライアントに有利な解除条件や、不当な理由での解除が可能な条項がないか、慎重にチェックすることが大切です。予期せぬ契約終了に備え、条件を把握しておくことは重要です。

4.9 紛争解決の方法:トラブルが起きたらどう解決するのか

万が一、契約に関するトラブルが発生した場合に、どのように解決するのか(例:協議、調停、訴訟など)が記載されているかを確認しましょう。管轄裁判所がどこになるのかも重要なポイントです。トラブル発生時の対応を事前に把握しておくことで、いざという時に冷静に対処できるでしょう。

5. エンジニア特有の落とし穴!見落としがちな「リスク条項」と例文

基本的な項目に加え、エンジニアならではの専門的なリスクが潜む条項にも注意が必要です。特に「知的財産権」の帰属や「瑕疵担保責任」(※2020年4月1日施行の改正民法では「契約不適合責任」)の範囲は、あなたの成果物や将来のキャリアに直接影響する可能性があります。これらのリスクを回避するためのチェックポイントと対策を解説します。

以下はあくまで参考例であり、実際の契約書に盛り込む際は必ず専門家に確認してください。

5.1 【検収・みなし検収】 報酬遅延を防ぐ「自動承認」の仕組み

納品した成果物がクライアントによって放置され、検収(納品物の確認・承認)がなかなか行われずに報酬の支払いが遅れるケースは少なくありません。このリスクを防ぐために、「みなし検収」の条項が重要になります。契約書に「クライアントが一定期間内に検収結果を通知しない場合、自動的に検収合格とみなす」旨を定めておくのです。こうすることで検収の長期化を防止し、報酬支払の遅延リスクを軽減できます。

【例文】乙(フリーランス)が成果物を納品した後、甲(クライアント)は受領後7営業日以内に検収を行い、その結果を乙に通知するものとする。甲が当該期間内に検収結果を通知しない場合、当該成果物は検収に合格したものとみなす。

このように検収期間を明示し、通知がない場合の自動承認(みなし検収)を取り決めておくことで、検収放置による支払い遅延を回避できます。また、不合格だった場合の再修正や再検収の手順も合わせて定めておくと安心です。

5.2 【知的財産権・実績公開】 あなたのコードとキャリアを守る

業務委託契約で開発された成果物の知的財産権(著作権など)は、原則として創作した受託者(フリーランス側)に帰属します。したがって、クライアントへ成果物の権利を移転するには、契約書で明確に譲渡条項を定める必要があります。契約書に権利帰属の記載がない場合、報酬を支払ってもクライアントは自由に成果物を使えない可能性があり、後々トラブルになり得ます。

フリーランス側として確認したいのは、開発した成果物を自身のポートフォリオ(実績)として公開できるか、また汎用的なコードやノウハウを今後再利用できるか、という点です。特に実績公開の可否は今後の案件獲得にも直結するため、契約時に明確に許可を得ておくことが重要です。必要に応じて契約書に「本成果物の開発実績を自身のポートフォリオとして公開できる」旨の条項を盛り込み、クライアントの協力義務に触れておくと安心でしょう。

また、クライアントが安心して成果物を利用できるよう、著作者人格権を行使しない旨(著作者人格権の不行使特約)を定めるのも一般的です。例えば「著作者人格権は行使しない」旨を契約に入れておけば、クライアントは納品物を改変・利用する際にいちいち制作者の同意を得る必要がなくなります。

【例文】本契約に基づき開発された成果物の著作権(著作権法第27条および第28条に定める権利を含む)は、甲(クライアント)に帰属するものとする。ただし、乙(フリーランス)は、本成果物の開発実績を自己のポートフォリオとして公開できるものとし、甲はこれに協力するものとする。乙は本成果物に関する著作者人格権を行使しない。

ポイント:譲渡範囲を定める際は著作権法27条・28条(二次的著作物の創作・利用権)も含めて明記する必要があります。また、上記例文のように実績公開を許可する特約を入れておくことで、安心して開発実績を公表できます。自分が開発に関与した事実を示せると、次の仕事獲得時に信頼材料となるでしょう。

5.3 【瑕疵担保責任】 「永遠の無償保守」を避けるための期間設定

請負型の業務委託契約では、納品物に不具合(瑕疵)があった場合にフリーランスが修正義務を負うことがあります。これを瑕疵担保責任(現行法では「契約不適合責任」)といい、契約書に責任の範囲や期間を明記しておくことが重要です。期間の定めがないと、クライアントから「納品後ずっと無償でバグ修正してほしい」といった要求を受けるリスクがあります。 一般的には、検収完了から○○日間といった形で無償修補期間を設定します。例えば「検収完了日から30日間」は一つの目安です。それを過ぎた不具合対応は別途有償で協議する、と区切っておけば、永続的な無償対応を暗黙に期待される事態を防げます。

【例文】乙(フリーランス)は、成果物の検収完了日から起算して30日間、本成果物に内在する瑕疵(欠陥)について無償で修補するものとする。当該期間経過後は、修補作業につき甲乙協議の上、有償にて対応するものとする。

このように無償対応期間を明記し、それ以降の対応は有償とする旨を書いておけば安心です。なお、期間設定することでクライアントにも早期に不具合報告・修正依頼を促す効果があります。あまりに短すぎる期間は先方に不安を与えるため、業務内容に応じて適切な長さ(30日~90日程度が一般的)を設定しましょう。

5.4 【責任限定条項】 万が一の損害賠償リスクを限定する

フリーランスにとって、システム障害や情報漏洩など万が一の際に発生し得る損害賠償リスクは見過ごせません。契約書に責任限定条項を明記し、過度な賠償責任を負わないように交渉することが重要です。

一般的には、損害賠償額の上限を報酬額相当までとするケースが多いです。例えば「賠償額は直近○ヶ月分の委託料を上限とする」「本契約の受託者への報酬総額を上限とする」などの書き方が用いられます。こうすることで、万一トラブルが起きても、無制限の損害賠償請求を受ける事態を避けられます。

【例文】乙(フリーランス)が甲に対して負う損害賠償責任は、**本契約に基づき甲が乙に支払った直近3ヶ月分の業務委託料**を上限とする。ただし、乙の故意または重過失により甲に損害が生じた場合はこの限りではない。

ポイント:通常発生し得る範囲の損害に限定することです。「直近〇ヶ月分」「契約総額まで」といった上限設定は、契約実務上よく見られる手法です。ただし故意・重過失の場合は無制限に責任を負う旨も付記するのが通例です(例文後段)。こうした条項を入れることで、「もしもの時」でも自分の事業継続に致命的な損害を被らないようにできます。

5.5 【再委託の可否】 一人で抱えきれない時のための選択肢

案件の内容によっては、業務の一部を他のエンジニアや協力会社に**外注(再委託)したくなる場合もあるかもしれません。契約書で「再委託の可否」**に関する条項を確認・取り決めておくことは、将来的な業務拡大や効率化の観点で重要です。

多くの場合、契約書には「再委託するには発注者の事前承諾が必要」と定められています。また、仮に承諾を得て再委託した場合でも、元の受託者が再委託先の行為に対して連帯責任を負う旨が盛り込まれるのが一般的です。これは、クライアント側にとっては「知らない第三者」に仕事を任せることへの不安を和らげるための条項でもあります。

【例文】乙(フリーランス)は、甲(クライアント)の書面による事前承諾を得た場合に限り、本業務の一部を第三者に再委託することができるものとする。この場合、乙は当該第三者に本契約と同等の義務を遵守させるとともに、当該第三者の行為について甲に対し一切の責任を負うものとする。

上記のように、承諾制と責任範囲の明確化をしておけば、必要なときに協力者を得つつも信頼を損ねずに済みます。再委託先の情報提供義務や秘密保持義務の継承など、細かな条件も必要に応じて定めましょう。いずれにせよ、自身が責任をもって業務を完遂する姿勢を示しつつ、柔軟なリソース調達の選択肢を残しておくことがポイントです。

6. 不利な条件は飲まない!スマートな契約交渉の進め方

契約書に不利な条項を見つけても、臆する必要はありません。修正を依頼することは、プロとして当然の権利であり、むしろ「細部まで気を配れる信頼できるエンジニア」という印象を与えることにも繋がる可能性があります。交渉の際は、高圧的にならず、建設的な姿勢で臨むことが大切です。

6.1 交渉は「対立」ではなく「調整」。目的は円満な取引

契約交渉は、クライアントとの「対立」ではなく、お互いが納得できる「調整」の場と捉えることが重要です。目的は、双方にとって公平で円満な取引関係を築くことです。あなたの懸念点を伝えつつ、クライアントの意図も理解しようとする姿勢が、良い結果に繋がりやすいでしょう。

6.2 「質問+懸念+代替案」で伝える交渉フレーズ例

交渉の際は、「ご相談なのですが」と質問形式で切り出すのがポイントです。例えば、「この条項について、〇〇という懸念があるのですが、△△のように修正いただくことは可能でしょうか?」のように、懸念点を伝えた上で、具体的な代替案をセットで提示すると、相手も検討しやすくなります。

* 報酬の支払条件

  • 原文:「納品後60日以内に支払う」
  • 問題点: キャッシュフロー的に厳しい

交渉例

  • 恐れ入りますが、報酬のお支払いについて、納品後30日以内でお願いできますでしょうか? フリーランスの立場として、一定のキャッシュフロー確保のため、ご協力いただけますと幸いです。

* 修正回数の制限

  • 原文:「納品後の修正は回数に制限を設けないものとする」
  • 問題点: 無限修正になり、時間コストが膨らむ恐れ

交渉例

  • 恐れ入ります、修正に関しては、○回までとさせていただけますでしょうか? それ以上は別途お見積もりとすることで、スケジュールと品質の両立を図りたいと考えております。

【引用】

6.3 【実践】交渉メールの完成例と「言い換え辞典」

実際に交渉メールを送る際の例文と、より丁寧な表現に言い換えるためのヒントをご紹介します。

件名例:【〇〇案件】業務委託契約書のご確認について(〇〇株式会社 〇〇様)

本文例:

  • `〇〇株式会社 〇〇様

いつもお世話になっております。 フリーランスエンジニアの〇〇です。

この度は、〇〇案件の業務委託契約書をお送りいただき、誠にありがとうございます。 内容を拝見いたしました。

つきましては、いくつかご相談させていただきたい点がございます。

特に、第〇条の「瑕疵担保責任」について、現在の記載ですと、検収完了後の無償対応期間が明確でないように見受けられます。 つきましては、検収完了後30日間を無償対応期間とし、それ以降は別途保守契約を締結する旨を追記いただくことは可能でしょうか。

(例:検収完了日から30日間、本成果物に内在する瑕疵のみ無償修補。当該期間経過後の修補については、別途甲乙協議の上、有償にて対応するものとする。

また、第〇条の「実績公開」について、将来的なポートフォリオとして本案件の実績を公開させていただくことは可能でしょうか。 (例:乙(フリーランス)は、本成果物の開発実績を自身のポートフォリオとして公開できるものとし、甲はこれに協力するものとする。

お忙しいところ恐縮ですが、ご検討いただけますと幸いです。 何卒よろしくお願い申し上げます。

署名`

【言い換え辞典】

  • 「〜してください」→「〜いただけますでしょうか」「〜していただくことは可能でしょうか」
  • 「〜できません」→「〜は難しい状況です」「〜は現状では対応が難しいかと存じます」
  • 「〜してほしい」→「〜をご検討いただけますと幸いです」「〜をお願いできますでしょうか」
  • 「〜が問題です」→「〜について懸念がございます」「〜についてご相談させてください」

6.4 すべてのやり取りはメールなど記録に残す

契約交渉の過程で交わされたやり取りは、必ずメールなどの書面で記録に残すようにしましょう。口頭での合意は、後から「言った」「言わない」のトラブルに発展する可能性があります。重要な合意事項は、必ず書面で確認し、双方で認識を共有しておくことが賢明です。

7. 電子契約・押印・印紙の要点|法的な有効性と実務の注意点

「契約書は紙でないと無効?」「ハンコがないとダメ?」といった疑問はよく聞かれます。結論から言うと、電子契約(PDFなど)でも法的に有効です。フリーランス保護新法でも電子データでの交付が認められています。重要なのは「双方の合意があったか」という事実であり、メールのやり取りなどもその証拠になり得ます。一方で、改ざん防止や本人確認といった「証拠力」を高める目的では、電子署名の活用やクラウド契約サービスを利用するのが有効です。

7.1 電子契約・電子署名の有効性

電子契約は、電子署名法に基づき、書面による契約と同等の法的効力を持つとされています。PDF形式の契約書に電子署名を付与することで、改ざん防止や本人確認が可能となり、安全に契約を締結できます。近年では、多くの企業で電子契約が導入されており、フリーランスも積極的に活用を検討してみると良いでしょう。

7.2 そもそも「押印」は必須なのか?

日本の商慣習として押印が一般的ですが、民法上、契約は当事者の合意があれば成立し、必ずしも押印は必須ではありません。ただし、押印は契約の成立や内容の真正を証明する強力な証拠となります。クライアントから押印を求められた場合は、指示に従うのが一般的ですが、電子契約の場合は電子署名で代替可能です。

7.3 印紙税の要点:電子契約は原則不要、紙は金額で必要

契約書には「印紙税」がかかる場合がありますが、これは紙の契約書に対して課される税金です。したがって、電子契約(PDFやクラウド契約サービスなど)で完結すれば、原則として印紙税は不要となります。ただし、ここで注意したいのが、「電子契約で締結した後に、その契約書をプリントアウトして双方で署名・押印し、紙で契約書を再び交換するケース」です。

このように電子契約後に紙でのやり取りを追加で行った場合、それが新たな“課税文書の作成”とみなされ、印紙税が課税される可能性があります。 国税庁の「印紙税法基本通達」では、課税文書の作成について、「課税事項を記載し、その文書の目的に従って行使すること」と定義されています。

つまり、電子契約書をプリントアウトし、それを紙として用いて相手方に交付した瞬間に、「課税文書を作成した」と見なされるのです。このため、せっかく電子契約で印紙税を節約できていたのに、紙で交わし直してしまうと逆効果になりかねません。特にフリーランスエンジニアの方にとっては、ペーパーレスで契約を完結することで、余計なコストを抑えられるというメリットがあります。

【出典・参考】

7.4 なぜ「書面」として残すことが重要なのか

法的には口頭での合意でも契約は成立しますが、後々のトラブルを避けるためには、合意内容を「書面」として残すことが最も安全です。書面化することで、契約内容が明確になり、双方の認識のズレを防ぐことができます。電子データであっても、内容が明確に記載された契約書を取り交わすことが推奨されます。

8. それでも不安なときに。専門家への相談窓口一覧

契約内容にどうしても不安が残る場合や、万が一トラブルが発生してしまった場合は、一人で抱え込まずに専門家へ相談しましょう。契約書のリーガルチェックであれば弁護士や行政書士、案件獲得や交渉のノウハウであればフリーランス向けエージェントが力になります。状況に応じて適切な相談先を選び、専門家の知見を借りることも賢い選択です。

8.1 法的な精査やトラブル対応なら:弁護士・行政書士

契約書の法的な有効性や、特定の条項のリスクについて深く知りたい場合は、弁護士や行政書士に相談するのが最も確実です。特に、トラブルに発展してしまった際には、法的な観点からのアドバイスや代理交渉を依頼できるため、心強い味方となるでしょう。

8.2 無料で相談したいなら:フリーランス・トラブル110番

国が運営する「フリーランス・トラブル110番」は、フリーランスが抱える様々なトラブルについて、無料で相談できる窓口です。契約に関する疑問や、報酬の未払いなど、幅広い内容に対応しています。まずは気軽に相談してみたいという場合に、活用を検討してみるのも良いでしょう。

【出典・参考】

9. まとめ:契約リテラシーを磨き、安心して開発に集中できる環境を手に入れよう

契約書をレビューするのは、面倒な事務作業ではなく、未来の自分を守る「投資」です。たった30分の確認をサボったせいで、数ヶ月にわたる無償対応や、数十万円単位の未払いトラブルを抱えるフリーランスは少なくありません。

本記事で解説してきたポイントは、ざっくり言うと次の3つです。

  • どの契約形態で、どこまで責任を負うのか(準委任か請負か/瑕疵・契約不適合責任の範囲)
  • 何について、いくら、いつ支払われるのか(業務範囲・検収・支払サイト・責任限定)
  • トラブル時にどう動くのか(フリーランス新法・相談窓口・交渉フレーズ)

これらを押さえておけば、「よく分からないけれどサインする」状態からは卒業できます。

今日からできる3つのアクション

  1. 次の契約から、「9つの必須項目」+リスク条項を必ずチェックする
    4章と5章の見出しをそのままチェックリスト代わりに使い、「どこが書かれていないか」を見る癖をつけましょう。
  2. フリーランス新法を前提に、支払サイトと中途解除条件を必ず確認する
    第3条・第4条・第16条は、フリーランス側から条件を聞き出したり、調整を依頼するための“盾”になります。3.3のフレーズ例を、自分用にストックしておくと便利です。
  3. 不利すぎる条項は飲まない。修正依頼を一度は出してみる
    「質問+懸念+代替案」のセットでメールを送り、それでもダメなら受けるか断るかを冷静に判断する。これを徹底するだけで、無茶な契約をつかまされる確率は大きく下がります。

契約リテラシーは、一度身につければずっと使い回せるスキルです。
フリーランス保護新法という追い風もある今のうちに、「何となく不安なまま契約する」状態から抜け出し、安心して開発に集中できる環境を自分で整えていきましょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. 契約書なしで業務を始めても大丈夫ですか?

  • A1. 口頭やメールのみでも契約自体は成立しますが、2024年11月施行の「フリーランス保護新法」により、発注者には「契約条件を書面または電磁的方法(電子契約・メール等)で明確に通知する義務」が課されました。契約内容を明文化し、トラブル防止・権利保護のためにも、必ず契約書(電子契約含む)を交わしましょう。

Q2. 電子契約は法的に有効ですか?

  • A2. はい。電子契約は「電子署名法」により紙の契約書と同等の法的効力・証拠力を持ちます。信頼性の高い電子契約サービスを使えば、改ざん防止や本人確認も可能です。実務・法律どちらの面でも安心して利用できます。

Q3. 業務委託契約書に印紙は必要ですか?

  • A3. 紙の契約書の場合は内容・金額に応じて印紙税が必要です。ただし、電子契約の場合は印紙税の課税対象外なので、印紙の貼付も納税も不要です。実務で印紙税を節約できる大きなメリットがあります。

Q4. 開発した成果物を実績として公開しても良いですか?

  • A4. 契約書に「成果物の公開可否」「実績紹介」に関する条項が入っているか必ず確認してください。記載がない場合や判断に迷う場合は、一方的に公開せず、必ず事前にクライアントの同意(できれば書面)を得ることが重要です。後々の信用・紛争リスク回避のため、慎重な対応を徹底しましょう。

Q5. 準委任契約と請負契約、どちらが良いですか?

  • A5. 業務内容やご自身の働き方に合わせて選択が必要です。成果物の完成や品質・納期に責任を持てる場合は「請負契約」で高単価を狙いやすく、納品義務や損害賠償等の責任も発生します。一方、まとまった工数・時間やプロセス重視型の業務では「準委任契約」が安定収入や柔軟な働き方に適しています。自分のスキルや案件特性を見て最適な契約形態を選びましょう。

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初回公開日2025.9.20
更新日2025.11.7

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