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【保存版】フリーランスエンジニア必見!業務委託契約書の雛形と実務で使えるチェックポイント

【保存版】フリーランスエンジニア必見!業務委託契約書の雛形と実務で使えるチェックポイント



はじめに:契約書の重要ポイントをざっくり整理

フリーランスエンジニアとして活動する上で、契約書は自分を守る最も重要な武器です。2024年11月1日から施行された「フリーランス新法」により、契約条件の明示や支払期日など、フリーランスを保護するための新しいルールが追加されました。まずは、絶対に押さえておくべき重要ポイントを整理しておきましょう。

契約前の「8項目の明示」(通称:3条通知)は相手の義務です。あなたは着手前に必ず受領しましょう。これは紙または電子的な方法で示す必要があり、口頭のみでは法的要件を満たしません。詳しい8項目の内訳は本文で解説しますが、契約書で兼ねることも可能です。

**支払期日は「検収完了から30日以内」を基本提案できます(法の上限は60日以内)。**特に再委託が絡む場合は、元の支払期日から30日以内という特別なルールが適用されます。

6か月以上の継続契約を解除・不更新する場合は30日前予告が原則となりました。ただし、一定の例外も認められています。あなたはこの予告ルールの運用を契約に明記しておきましょう。

電子契約はあなたのコスト削減につながります(原則として印紙税は課税対象外) ただし、紙に出力して正式文書として扱う場合は課税対象となる可能性があります。

損害賠償の上限設定は"必須条項"ではありませんが、あなたを守る防御条項として強く推奨されます。上限設定、間接損害の除外、故意・重過失の場合の除外など、交渉で盛り込むことが重要です。

それでは、これらのポイントを踏まえて、実務で使える契約書の作り方を詳しく見ていきましょう。


フリーランス新法の概要

まず、今回の法改正の正式名称と施行日を確認しておきましょう。

正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(通称:フリーランス新法/令和5年法律第25号)
施行日2024年11月1日

あわせて「フリーランス・ガイドライン」も2024年10月18日に改定されています。

【出典・参考】


1. どうして契約書(+3条通知)が"絶対"大事なのか

口約束だけでは危険な理由

フリーランスエンジニアとして働く上で、口約束だけで仕事を始めることは非常にリスクが高いと言わざるを得ません。なぜなら、報酬の遅延、仕様の無限追加、成果物の権利に関する食い違いなど、様々なトラブルが起きやすくなるからです。

令和4年(2022年)に中小企業庁が行った調査によると、**「条件が十分に形に残る形で示されていない/不十分」なケースは約38%**にも上ります(不十分17.6%+示されていない20.7%)。つまり、約4割のフリーランスが、きちんとした契約条件の明示を受けずに仕事を始めているという現実があるのです。

よくある失敗パターン

実際の現場では、以下のような失敗がよく起こっています。

**「見積にない追加を当然のように頼まれた」**という経験はありませんか?最初は「ちょっとした修正」と言われていたものが、気づけば大規模な機能追加になっていた、というケースは珍しくありません。

**「検収が長引いて支払いが先延ばし」**になることも多々あります。成果物を納品したのに、なかなか検収が終わらず、結果として報酬の支払いが数か月遅れる、あるいは最悪支払われないという事態も起こり得ます。

**後から『全部うちの物』と言われることを防ぐために、契約書で権利の帰属を明確にしておきましょう。**例えば、**自分が書いたコードを、後からポートフォリオに使おうとしたら、クライアントから「それは全て弊社の所有物です」と言われてしまうケースもあります。

契約書+3条通知は、こうしたズレを事前に防ぐための"土台"となるものです。トラブルが起きてから対処するのではなく、最初から明確なルールを定めておくことが、お互いにとって最も効率的で建設的な方法なのです。

【出典・参考】


2. 法の基礎を"やさしく"整理

2-1. ほぼ全ての一人フリーランスが対象

フリーランス新法では、取引の当事者を以下のように定義しています。

受注側(あなた)は「特定受託事業者」と呼ばれます。これは、個人で従業員を使わない方、または法人で代表者以外に役員がおらず、従業員もいない方が該当します。つまり、一人で仕事をしているフリーランスエンジニアの方は、ほぼ全員がこれに当てはまります。

発注側は「業務委託事業者/特定業務委託事業者」と呼ばれます。従業員を使う事業者や、役員が2名以上いる法人などが該当します。つまり、一般的な企業はほとんどがこれに当てはまることになります。

2-2. 3条通知(取引条件の明示)とは何か

3条通知とは、業務開始"前"に、書面または電子的方法で8項目を明示することを義務付けたものです。メールでの送付も認められていますが、口頭のみでは法的要件を満たしません。

具体的に明示すべき8項目は以下の通りです:

  1. 発注事業者・フリーランスの名称
  2. 業務委託をした日
  3. 給付の内容(=成果物や提供するサービスの内容)
  4. 給付を受領する期日/役務の提供を受ける期日(=納品日や作業完了日)
  5. 給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所(=納品場所や作業を行う場所)
  6. 検査完了期日(検査をする場合のみ)
  7. 報酬の額および支払期日
  8. 報酬の支払方法に関すること(現金以外の方法で報酬を支払う場合のみ)

再委託業務の場合は、上記 8項目 に加えて、以下の明示も必要です。

  • 再委託である旨
  • 元委託者の名称
  • 元委託業務の対価の支払期日 補足:これらは 条件付き追加項目 であり、再委託に該当する場合のみ明示が義務づけられています。

明示方法の選択(あなたの書面請求権あり)

書面または電磁的方法のどちらで明示するかは発注事業者が選べますが、あなたには書面交付を求める権利があります。電子で明示された場合でも、請求すれば相手は遅滞なく書面を交付しなければなりません。 実務上は、3条通知を受領するまでは着手しないのが安全です(スケジュール影響を避けるため、キックオフ前日までの送付を合意しておきましょう)。

【引用】:公正取引委員会 業務の内容 取引条件の明示

追記(コピペ用・催促テンプレ)

件名:3条通知(取引条件の明示)のご送付依頼

お世話になっております。〇〇案件の開始にあたり、 法令(フリーランス新法3条)に基づく取引条件の明示書面の ご送付をお願いできますでしょうか(電子で結構です)。 受領後に着手いたします。ご確認よろしくお願いいたします。

2-3. 支払いルール(超重要)

支払いに関するルールは、フリーランスの生活に直結する最も重要な部分です。

基本は「検収完了(=検収合格)から30日以内」を提示し、やむを得ず長くする場合でも60日を超える条件は拒否できます。「月末締め翌々月末払い」のような慣習的な表現ではなく、「検収完了日から30日以内」のように、具体的な日付での合意が必要です

再委託が絡む場合は、さらに厳しいルールが適用されます。元の支払期日から30日以内で、できる限り短い期間内に支払うことが義務付けられています。あなたが再委託側に位置する場合の交渉根拠としても活用できるポイントです

2-4. 長期契約(6か月以上)の解除・不更新

6か月以上の継続的な契約については、解除や不更新に関する特別なルールが設けられています。

原則として30日前の予告が必要となりました。これは、フリーランスが急に仕事を失うことを防ぎ、次の仕事を探す時間を確保するための措置です。

ただし、以下のような例外も認められています:

  • 災害等のやむを得ない事由がある場合
  • 再委託元が解除した場合
  • 短期契約であることが明らかな場合

2-5. 雇用契約との違い・偽装請負の注意点

ここで注意すべきは、実態が発注者の指揮命令下に近い状態になっていると、請負・委託契約であっても"派遣"や"雇用"と判断される可能性があることです。契約書の名称だけでは、この判断を逃れることはできません。

具体的には、以下のような状態は避ける必要があります:

  • 発注者の事務所で、発注者の指示通りの時間に勤務する
  • 業務の進め方について、細かい指示を受ける
  • 発注者の社員と同じような管理を受ける

【出典・参考】


3. "雛形"で押さえる必須項目(実務メモつき)

3-1. 業務内容・範囲

業務内容の記載は、契約書の中で最も重要な部分の一つです。タスクの粒度まで具体的に記載し、除外作業も明記することが、後々のトラブルを防ぐ鍵となります。

例えば、「Webアプリケーションの開発」という曖昧な表現ではなく、「ユーザー管理機能(新規登録、ログイン、パスワードリセット)の実装」のように、具体的な機能単位で記載することが重要です。また、「デザイン作成は含まない」「インフラ構築は別途」など、含まれない作業も明確にしておきましょう。

3-2. 報酬・支払条件

報酬体系には様々な方式があります。固定報酬、時間単価、マイルストーン払いなど、プロジェクトに適した方式を選択し、支払期日(60日以内を目安)を明確に設定することが必要です。

また、検収基準と検収期間を明確にすることも重要です。「バグがないこと」という曖昧な基準ではなく、「仕様書に記載された全機能が正常に動作し、単体テストのカバレッジが80%以上であること」のような具体的な基準を設けましょう。 検収合格日を請求起算日とし、納品後◯営業日以内に合否連絡がない場合は合格(みなし検収)として、その日を起算日にします。

3-3. 納期・場所・時間

納期(またはスプリント単位)、作業場所、稼働の目安を一体的に定めることで、お互いの期待値を揃えることができます。

アジャイル開発の場合は、「2週間スプリントで、各スプリント終了時にデモを実施」のように、開発サイクルを明確にしておくことが重要です。リモートワークの場合は、「原則として在宅勤務、必要に応じて月1回程度のオフィス訪問」のように、働き方の柔軟性も明記しておきましょう。

3-4. 成果物・知的財産権

ソースコード、設計書の帰属、二次利用、クレジット表記の扱いは、エンジニアにとって特に重要な項目です。

一般的には、報酬の支払いと引き換えに著作権が発注者に移転する形が多いですが、「受注者は成果物をポートフォリオとして公開する権利を有する」のような条項を入れることで、自分のキャリアアップにも活用できます。また、OSSや生成AIを使用する場合の取り扱いについても、事前に合意しておくことが重要です。

3-5. 機密保持(NDA)

機密保持条項では、目的外利用の禁止、再委託先への機密保持義務の伝達、返還・削除の方法を明確に定めます。

特に、プロジェクト終了後のデータの取り扱いは重要です。「契約終了後30日以内に、全ての機密情報を削除し、削除証明書を提出する」のような具体的な手順を定めておくことで、後々のトラブルを防げます。

3-6. 契約変更・解除

変更手順(チケット合意→追加見積→合意書)を定型化することで、スムーズな変更管理が可能になります。

また、30日前予告を相互に設定し、例外事由は法律に整合させることで、お互いに公平な条件となります。「重大な契約違反があった場合」「支払いが30日以上遅延した場合」など、即時解除できる条件も明確にしておくことが重要です。

3-7. 損害賠償(位置づけを修正)

ここで重要な点を強調しておきます。損害賠償の上限設定は必須条項ではありません。しかし、フリーランスエンジニアとして自分を守るための**"推奨される防御的条項"**として、ぜひ交渉で盛り込むことをお勧めします。

具体的には、責任の上限(例:直近6か月の支払額合計)を設定し、間接損害の除外故意・重過失の場合は除外などの条件を交渉で入れることで、予期せぬ巨額の賠償請求から身を守ることができます。

例えば、「本契約に関連して生じた損害賠償の総額は、損害の原因となった事由が生じた時点から遡って6か月間に支払われた報酬の総額を上限とする。ただし、故意または重大な過失による場合はこの限りではない」といった条項を入れることで、リスクを適切にコントロールできます。

3-8. 管轄裁判所・準拠法

紛争が生じた場合の解決方法を明確にしておくことで、万が一のトラブル時にも迅速な対応が可能になります。

一般的には、「本契約に関する紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」のような条項を設けます。遠方のクライアントの場合は、オンラインでの調停なども視野に入れて交渉することも考えられます。

【出典・参考】


4. エンジニア案件ならではの追加ポイント

4-1. 技術要件の明確化

エンジニアリング案件では、使用する言語・フレームワーク・バージョン、クラウドサービス、CI/CDツールなどを明記することが不可欠です。

例えば、「開発言語:Python 3.10以上、フレームワーク:Django 4.2、データベース:PostgreSQL 14、デプロイ先:AWS EC2」のように、具体的なバージョンまで指定しておくことで、環境の違いによるトラブルを防げます。

セキュリティ要件についても、権限管理、鍵管理、データ持ち出しのルール具体例で示すことが重要です。「本番環境へのアクセスは、発注者が提供するVPN経由でのみ可能とし、アクセスキーは定期的にローテーションする」といった具体的な運用ルールを定めておきましょう。

4-2. 品質・レビュープロセス

コードの品質を保つために、静的解析ツール、Lintツール、テストカバレッジの目安を設定し、プルリクエストレビューの回数も明確にしておきます。

例えば、「全てのコードはESLintの推奨設定をパスし、単体テストのカバレッジは80%以上を維持する。プルリクエストは最低1名のレビューを経てマージする」といった基準を設けることで、品質の維持が可能になります。

また、受入基準を検収基準と揃えることで、納品時のトラブルを防ぐことができます。開発中に使用している品質基準と、最終的な検収基準が異なると、手戻りが発生する原因となります。

4-3. 仕様変更への対応(アジャイル開発)

アジャイル開発では仕様変更が前提となるため、バックログ合意→ポイント再見積→追加合意のフローを契約本文に組み込むことが重要です。

また、"軽微な修正"の線引きを明確に定義しておくことも必要です。例えば、「1人日以内で完了する修正は軽微な修正とし、それを超える場合は追加見積の対象とする」といった基準を設けることで、無限の修正要求を防げます。

4-4. 保守・運用フェーズの取り決め

保守・運用では、あなたの稼働体制(対応可能曜日・時間、休日対応の可否)を前提に、バグ対応の範囲、SLA(サービスレベルアグリーメント)、連絡チャネルを定めます。 ガイドの例(Critical:4時間以内/High:1営業日以内/Medium:3営業日以内)はあくまで一般目安なので、あなたが現実に守れる数値へ必ず調整してください。無理なSLAは契約違反リスクを高めます

例えば、「納品後3か月間は無償でバグ修正を行う(ただし、仕様変更は除く)」「緊急度に応じて、Critical:4時間以内、High:1営業日以内、Medium:3営業日以内に初動対応を行う」といった具体的な基準を設けることで、保守フェーズでのトラブルを防げます。


5. 実務フロー(最短ロードマップ)

ここでは、実際に契約を進める際の具体的な手順を、ステップバイステップで解説します。

ステップ1:雛形の準備

まず、雛形を複製し、案件に合わせて穴埋めしていきます。基本となる雛形を持っておき、案件ごとにカスタマイズすることで、効率的に契約書を作成できます。 決めること(最低限)

  • 契約形態:準委任(時間稼働)/請負(成果物完成)
  • 業務範囲の定義:やること/やらないこと(除外)/前提・依存
  • 検収基準:合否の判定条件、検収期間(◯営業日)
  • 報酬方式:固定/時単/マイルストーン、支払期日(60日以内)
  • 知財:帰属、二次利用可否、人格権不行使(必要時)
  • 責任限定:上限(例:直近6か月分)、間接損除外、故意重過失は除外
  • 変更手順:変更→影響分析→再見積→追加合意(メール可)
  • 実務TIP
    • 可変値シート(単価、期日、裁判管轄 等)を1枚に集約 → 本文に差し込み
    • ファイル命名:Contract_[案件名]_v1_2025-08-22.pdf日付と版数で追跡)
    • レッドライン運用:変更箇所は赤字・コメントで履歴を残す

補足:準委任は「稼働上限(例:月140h)」と超過時の精算を入れておくと安全。

ステップ2:3条通知の送付(2025年版)

フリーランス新法では、発注事業者はフリーランスに業務委託をした場合、直ちに取引条件を「書面」または「電磁的方法(メール・SNSメッセージ等)」で明示する義務があります。 口頭で伝えることは認められません。

明示すべき基本8項目

以下の 8項目 を必ず記載してください。

  1. 発注事業者・フリーランスの名称
  2. 業務委託をした日
  3. 給付の内容(役務内容)
  4. 給付を受領する期日/役務の提供を受ける期日
  5. 給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所
  6. 検査完了期日(検査をする場合のみ)
  7. 報酬の額および支払期日
  8. 報酬の支払方法(現金以外で支払う場合のみ)

明示方法の選択

  • 書面または電磁的方法のいずれかを発注事業者が選択可能
  • ただし電磁的方法で明示した場合でも、フリーランスが求めれば原則書面を交付しなければなりません。

条件付きで追加される明示事項

  • 再委託の場合:再委託である旨、元委託者の氏名、元の支払期日 などを追記。
  • 30日特則など特例を利用する場合も、その旨を明示する必要があります。

実務のポイント

  • メール本文にコピペできる定型文をあらかじめ準備しておくと便利です。
  • 業務開始前に必ず送付し、送信記録を残しておきましょう。
  • 3条通知を受領するまでは着手しない運用を徹底(送付期限を事前合意)。遅延時はスケジュール再調整を明記しておきましょう。

【出典・参考】

ステップ3:関連書類の添付で契約を具体化する

契約書本体だけでは、実際の業務内容を完全に表現することは困難です。そこで重要になるのが、関連書類の添付です。

初回見積書は、金額の根拠を明確にする重要な書類です。「フロントエンド開発:○○万円」といった大まかな記載ではなく、「ユーザー認証機能(20人日):○○万円、商品検索機能(15人日):○○万円」のように、機能単位で工数と金額を明記することで、後々の追加作業の見積もりも明確になります。

スコープ定義書では、プロジェクトの範囲を視覚的にも分かりやすく示します。「含まれる機能」だけでなく、「含まれない機能」も明記することがポイントです。例えば、「決済機能の実装は含むが、決済代行会社との契約手続きのサポートは含まない」といった具合に、境界線を明確にしておきましょう。

検収基準書は、プロジェクト完了の判断基準となる最も重要な書類の一つです。「バグがないこと」という曖昧な表現ではなく、「単体テストカバレッジ80%以上」「主要ブラウザ(Chrome、Safari、Edge最新版)での動作確認完了」「パフォーマンステスト(1000件のデータで3秒以内の表示)クリア」など、測定可能な基準を設定します。

これらの書類は契約書の一部として扱われることが多いため、契約書本体との整合性は必須です。契約書で「別紙仕様書に基づく」と記載したなら、その別紙の内容が契約書の条項と矛盾しないよう、十分な確認が必要です。

ステップ4:電子契約のメリットを最大限活用する

電子契約の最大のメリットは、印紙税が原則として不要になることです。請負契約の場合、契約金額に応じて数千円から数万円の印紙税がかかりますが、電子契約ならこのコストを削減できます。

さらに、電子契約には他にも多くのメリットがあります。契約締結までの時間を大幅に短縮できることは、ビジネスのスピード感が求められる現代において大きな利点です。郵送の往復で1週間かかっていた契約が、数時間で完了することも珍しくありません。 また、契約書の保管・管理が容易になることも見逃せません。紙の契約書は保管場所を取り、必要な時に探すのも一苦労ですが、電子契約なら検索一つで過去の契約を確認できます。

電子契約サービスを選ぶ際は、タイムスタンプ機能や電子署名の法的有効性を確認しておきましょう。主要なサービス(クラウドサイン、DocuSign、GMOサインなど)は、これらの要件を満たしていますが、クライアント企業が指定するサービスがある場合は、事前に使い方を確認しておくとスムーズです。

ステップ5:支払いまでの進捗を確実に管理する

契約締結後の管理は、フリーランスの収入に直結する重要な業務です。特に複数の案件を並行して進めている場合、それぞれの進捗を正確に把握することが不可欠です。

検収のタイミングは、契約書で定めた基準に基づいて明確に管理します。「納品から○営業日以内に検収」という条項があれば、その期限をカレンダーに登録し、期限が近づいたらリマインドを送ります。「連絡がない場合は検収完了とみなす」条項がある場合でも、念のため確認の連絡を入れることで、トラブルを未然に防げます。

請求書の発行は、検収完了後速やかに行います。請求書には、契約書で定めた支払条件を明記し、振込先情報に誤りがないか必ず確認しましょう。また、源泉徴収の有無についても、事前に確認しておくことが重要です。

支払期日のトラッキングは、エクセルやGoogleスプレッドシートなどで一覧管理することをお勧めします。「クライアント名」「請求日」「請求金額」「支払予定日」「入金確認」などの項目を設け、定期的にチェックする習慣をつけましょう。

フリーランス新法では60日以内の支払いが原則とされていますが、実際には30日や45日で設定されることが多いです。支払いが予定日を過ぎても入金されない場合は、まず丁寧なリマインドメールを送ります。「お忙しいところ恐れ入りますが、○月○日付けの請求書(請求番号:○○)について、お支払い状況をご確認いただけますでしょうか」といった形で、事務的なミスの可能性も考慮した文面にすることがポイントです。

電子契約の印紙税に関する重要な補足 ここで、電子契約と印紙税について、もう少し詳しく説明しておきましょう。

電子契約が印紙税の対象外となる理由は、印紙税法が「紙の文書」を課税対象としているためです。電子データのまま保管・管理される契約は、この「紙の文書」に該当しないため、印紙税がかからないのです。 ただし、注意すべき点があります。電子契約を紙に印刷して、それを正式な契約書として扱う場合は、その印刷した紙が課税文書となり、印紙税の対象となる可能性があります。

例えば、以下のようなケースでは注意が必要です:

  • 社内規程で「契約書は紙で保管すること」と定められている企業
  • 税務調査対策として、紙の契約書を要求する企業
  • 電子契約に不慣れで、結局紙に印刷して押印し直すケース

このような場合の対応方法としては、電子契約の法的有効性について説明し、電子データでの保管を提案することが考えられます。「電子帳簿保存法に基づき、電子契約も正式な契約書として認められています」「印紙税のコスト削減にもなります」といった形で、クライアントにメリットを説明することで、理解を得やすくなるでしょう。

また、クライアント企業の経理部門や法務部門のポリシーを事前に確認しておくことも重要です。大手企業では電子契約の運用ルールが明確に定められていることが多いですが、中小企業では担当者レベルで判断が異なることもあります。契約交渉の初期段階で、「御社では電子契約の利用は可能でしょうか」と確認しておくことで、後々の手戻りを防げます。


6. 相手別の交渉のコツ

6-1. 法人相手(BtoB)の場合

大手企業や中堅企業と契約する場合、相手方から提示される契約書雛形には要注意です。
無制限の損害賠償責任、成果物の全面的な権利帰属、無償での無限修正 といったフリーランスに不利な条項が含まれていることが多いため、必ずチェックしましょう。

交渉の基本姿勢

単に「削除してください」ではなく、代替案を提示して Win-Win に持ち込むことが重要です。

具体的な交渉例

無制限責任
→ 「責任上限を契約金額の範囲内とし、故意・重過失の場合は除外」と提案。
全面的な権利帰属
→ 「著作権は譲渡するが、ポートフォリオ掲載の利用許諾を得る」。
無償修正
→ 「納品後1か月以内のバグ修正は無償、それ以降は別途見積」。

切り出しの一言(交渉時に使えるフレーズ) → 「私の標準条件として、責任上限と検収期日だけ整えさせてください。運用の確実性向上のためです。」

補足
大手企業では雛形修正が難しい場合もあります。
その際は「責任上限の上書き条項」や「別紙覚書」で調整するなど、落とし所を探る柔軟さも必要です。

6-2. 個人相手(toC/個人事業主)の場合

個人のクライアントやフリーランス同士の契約では、法人相手とは異なる視点が必要です。
契約書は簡略化しても構いませんが、フリーランス新法 第3条に基づく「取引条件の明示(3条通知)」の8項目は必須です。省略は認められません。

特に重要なポイント

  • 本人確認を必ず行う
    • 振込口座名義と本人の一致確認
    • 電子署名や免許証写しの提示を依頼
  • 支払条件を明確にする
    • 「前金30%+納品時70%」など、リスク分散型の支払い条件を提示
    • 「銀行振込」「PayPay送金」など、送金手段を事前合意

トラブル防止の交渉例

  • 「支払い能力が不明な場合 → 前金必須」
  • 「少額案件 → 着手金100%前払い」
  • 「長期案件 → 月次分割払い」

補足
個人相手では支払い遅延リスクが高いため、契約前に条件を固め、必ず記録を残すことが重要です。

【出典・参考】

6-3. 付録:交渉の切り出しテンプレート & 最低限の自衛策

契約交渉は多くのフリーランスエンジニアにとって、最もハードルが高い部分かもしれません。「どう切り出せばいいのか」「断られたらどうしよう」という不安から、不利な条件をそのまま受け入れてしまうケースも少なくありません。

そこで、実際の現場ですぐに使える交渉テンプレートと、相手のタイプ別の対応方法、そして交渉がうまくいかなかった場合の最低限の自衛策をまとめました。これらを参考に、自信を持って交渉に臨んでください。

1) 交渉メールテンプレート(コピペ可)

以下のメールテンプレートは、そのままコピーして使えるように作成しています。相手の名前と具体的な案件名を入れるだけで、プロフェッショナルな交渉メールが完成します。

件名:契約条件の一部調整のお願い(責任限定/検収基準)

〇〇株式会社 〇〇様

お世話になっております。
〇〇案件の契約条件について、運用の確実性向上のため
下記2点のみ調整のご提案です。

1. 損害賠償の上限:直近6か月の支払総額を上限(故意・重過失は除外)
2. 検収基準:納品後5営業日以内に合否連絡がない場合は検収完了

いずれも品質担保とリスク分担の明確化が目的です。
ご検討のほどよろしくお願いいたします。

このメールのポイントは、「運用の確実性向上」という相手にもメリットがある表現を使っていることです。単に自分のリスクを減らしたいという印象を与えず、プロジェクト全体の成功を考えた提案として受け取ってもらいやすくなります。

2) 会話例(そのまま言える一言)

対面やWeb会議での交渉では、メールとは違った切り出し方が必要です。以下、実際に使える会話例を紹介します。

切り出しの一言
「運用を安定させるための"型"として、責任上限と検収期日だけ整えておきたいです。」

この表現の良いところは、「型」という言葉を使うことで、特別な要求ではなく標準的な手続きという印象を与えられることです。また、「運用を安定させる」という表現で、相手にとってもメリットがあることを暗に示しています。

断られた時の切り返し

相手から「弊社の雛形は変更できません」と言われた場合:
「御社の雛形を尊重します。代わりに"別紙覚書"で上限だけ明記するのは可能でしょうか?」

この切り返しは、相手の立場を尊重しつつ、別の方法で目的を達成しようとする建設的なアプローチです。多くの企業では、契約書本体の修正は難しくても、別紙での対応は可能なケースがあります。

それでも難しい場合:
「条文修正が難しければ、検収の合否期日をメールで運用合意しておく形でも構いません。」

最終的には、メールでの合意でも、何もないよりははるかに良い状況を作れます。この提案なら、相手も受け入れやすいでしょう。

3) 温度感の目安(大手/中小/個人)

相手のタイプによって、交渉のアプローチを変える必要があります。それぞれの特徴と対応方法を理解しておきましょう。

大手企業の場合
大手企業は契約書の雛形が厳格に管理されており、本文の修正は非常に困難です。法務部門のチェックが厳しく、標準雛形からの逸脱を嫌う傾向があります。

対応策:別紙・覚書・運用合意という形での対応が通りやすいです。「御社の標準契約書は変更せず、運用面での取り決めを別途させていただけませんか」というアプローチが効果的です。

中小企業の場合
中小企業は比較的交渉の余地があります。法務部門が独立していないことも多く、担当者レベルでの判断で契約条件を調整できることがあります。

対応策:**代替案(上限設定×故意重過失除外)**を添えると通りやすいです。「こちらのリスクも限定させていただく代わりに、品質保証期間を延長します」といった、ギブアンドテイクの提案が有効です。

個人事業主の場合
個人のクライアントは手続きが簡素な反面、未払いリスクに注意が必要です。企業と違って与信管理が難しく、支払い能力の見極めが重要になります。

対応策:着手金・分割払い・前払いを提案しましょう。「プロジェクト開始時に30%、中間で40%、完了時に30%」といった分割払いや、小規模案件なら全額前払いを求めることも検討すべきです。

4) 修正が通らなかった時の「最低限の自衛策」

どんなに交渉しても、相手の条件を変更できないケースもあります。そんな時でも、以下の自衛策を講じることで、リスクを最小限に抑えることができます。

検収の合否期限をメールで運用合意
契約書に明記できなくても、メールで「納品後5営業日で連絡がない場合は検収完了とさせていただきます」という合意を取っておきましょう。これだけでも、検収が無限に引き延ばされるリスクを防げます。

実際のメール例:

本日お打ち合わせした通り、納品後5営業日以内に
検収結果のご連絡がない場合は、検収完了として
請求書を発行させていただく運用で進めさせていただきます。
よろしくお願いいたします。

マイルストーン請求の活用
長期案件では、全額を最後に請求するのではなく、フェーズごとに分割して請求することで、未払いリスクを分散できます。「要件定義完了時:20%」「設計完了時:30%」「実装完了時:30%」「納品時:20%」といった形で、細かく区切ることが重要です。

着手金30%または小口案件は全額前払い
特に新規のクライアントや個人事業主の場合、着手金を設定することは必須です。「材料費や初期準備のため」という理由をつけると、相手も納得しやすくなります。10万円以下の小規模案件なら、思い切って全額前払いを提案することも検討しましょう。

範囲外作業の定義を見積書に明記
契約書で業務範囲を明確にできない場合でも、見積書に「以下の作業は含みません」という形で除外事項を明記しておきます。これにより、後から「これも含まれているはず」という要求を防げます。

見積書への記載例:

【本見積に含まれない作業】
・デザイン作成、画像加工
・サーバー環境の構築、設定
・他システムとの連携開発
・仕様書に記載のない機能の追加
※上記作業が必要な場合は、別途お見積りいたします

連絡チャネルと初動時間の一行合意
保守や運用が含まれる場合、以下のような一行をメールで合意しておくだけでも、無理な要求を防げます。

緊急時(システム停止等):電話連絡→4時間以内初動
通常時(機能改善等):メール連絡→2営業日以内回答

契約交渉を成功させる最大のコツは、「対立」ではなく「共同作業」として捉えることです。あなたが守られることは、プロジェクトの安定的な遂行につながり、最終的にはクライアントの利益にもなります。 最初は緊張するかもしれませんが、ここで紹介したテンプレートや会話例を使えば、プロフェッショナルな交渉ができるはずです。そして、たとえ全ての要求が通らなくても、最低限の自衛策を講じることで、大きなトラブルは防げます。

契約交渉のスキルは、経験を積むことで必ず向上します。最初から完璧を求めず、一つずつ実践していくことが大切です。この付録が、あなたの交渉の第一歩を後押しする助けになれば幸いです。

7. トラブル予防&もし起きたときの対処法

未払い対策

報酬の未払いは、フリーランスにとって最も深刻な問題の一つです。これを防ぐために、以下の対策を講じましょう:

  • マイルストーン請求:長期プロジェクトは分割して請求
  • 前金の設定:契約時に30–50%の前金を設定
  • 検収の定義を明確に:「○営業日以内に連絡がない場合は検収完了とみなす」条項を入れる

補足

フリーランス新法では「納品から60日以内の支払い」が義務化されています。
ただし、検収完了とみなす条項は契約書に明記しておかないと無効化される可能性があるため、必ず契約段階で文書化しておきましょう。

仕様変更への対応

「ちょっとした修正」が積み重なって、気づけば当初の倍以上の作業量になっていた…という経験はありませんか?
これを防ぐためには、証拠を残す形での合意プロセスが不可欠です。

チケット合意 → 追加見積 → 書面(メール・PDF)合意

このフローを毎回踏むことで、クライアント側も「これは追加作業だ」と認識し、無理な要求が減る効果もあります。
Slackなどのチャットでのやり取りだけでは証拠性に乏しいため、必ずメールやPDFでの合意を残すことを徹底しましょう。

権利関係の齟齬

成果物の権利については、開発後にトラブルになることが多い項目です。帰属と利用範囲を先に文字化しておくことで、後々の争いを防げます。

  • 「著作権法では成果物は原則として制作者に帰属」するため、契約で明確に移転・留保を定める必要があります。
  • 「汎用ライブラリ部分は受注者に留保」と条項化しておくと、将来の利用も可能になります。
  • 秘密保持契約(NDA)との整合性にも注意が必要です。クライアント情報や機密データを含むコードは勝手に再利用できないため、契約全体で確認しましょう。

相談窓口の活用

もしトラブルが発生してしまった場合は、一人で抱え込まずに専門家に相談しましょう。

フリーランス・トラブル110番(厚生労働省委託・第二東京弁護士会運営)

  • 電話番号:0120-532-110
  • 受付時間:平日9:30–16:30
  • 相談方法:電話・メール・Web(ビデオ通話)・対面
  • 弁護士による専門的なアドバイスを無料で受けられます。

【出典・参考】


8. そのまま使えるチェックリスト

契約書の作成や交渉は複雑に感じるかもしれませんが、実は押さえるべきポイントは決まっています。ここでは、実務で即座に使えるチェックリストと、交渉を成功させるための具体的なテクニックをご紹介します。

8-1. 契約前チェック(12+α項目)

契約書にサインする前の最終確認は、フリーランスエンジニアとしての自己防衛の最後の砦です。以下のチェックリストを使って、必ず全項目を確認してください。一つでも不明確な点があれば、遠慮なく質問することが大切です。

あなたが確認する要件 基本的な法的要件のチェック

3条通知の8項目が契約書または別紙・メールで網羅されている
フリーランス新法で義務付けられた8項目は、契約の基礎となる重要事項です。契約書本体に含まれていなくても、別紙やメールで明示されていれば問題ありません。

あなたが提示・確認する要件 業務内容に関するチェック

業務範囲/除外範囲が具体的に記載されている
「Webアプリケーション開発」という曖昧な表現ではなく、「ユーザー管理機能(新規登録、ログイン、パスワードリセット)の実装。デザイン作成は含まない」のように、含む機能と含まない機能を明確に区別しているか確認しましょう。

納期(またはスプリント)・検収基準が明確である
納期だけでなく、検収の合否判定期限や、連絡がない場合の「みなし合格」規定の有無も重要です。「納品後5営業日以内に合否を通知。未通知の場合は合格とみなす」といった条項があると安心です。

あなたが提示・確認する支払条件 金銭面のチェック

料金方式・総額が明記されている
時間単価制なのか、固定報酬なのか、マイルストーン払いなのか。それぞれの方式に応じた詳細(上限時間、分割の基準など)も確認が必要です。

支払サイトと支払期日:あなたは「検収完了から30日以内」を基本提案(上限60日)。 検収基準と連動した支払期日が設定され、60日以内という法的要件を満たしているか確認します。「検収完了月の翌月末」のような表現も、60日を超えないか計算してみましょう。

消費税・源泉所得税・振込手数料の負担者:契約段階であなたが明確化。未記載なら原則は支払側負担だが、明記があれば従うため要チェック。 意外と見落としがちですが、これらの負担者が不明確だと、実質的な手取り額が変わってきます。特に振込手数料については、**民法第484条・485条により「契約書に明記がない場合は支払側(クライアント)が負担するのが原則」**です。 一方で、契約書に「受注者負担」と明記されている場合には、例外的にフリーランス側が負担することもあり得ます。 実務では契約書に明記されるケースが多いため、必ず契約段階で確認しておきましょう。 また、源泉徴収の有無は確定申告に直結するため、消費税の取り扱いとあわせて事前に整理しておくことが重要です。

□ **適格請求書発行事業者番号(インボイス番号)**の扱いが整理されている
インボイス制度への対応状況を確認し、必要に応じて登録番号の記載方法も決めておきましょう。

知的財産権のチェック

知財の帰属・利用範囲が明確である
著作権法27条・28条の権利も含めた譲渡なのか、著作者人格権の不行使特約があるか、ポートフォリオでの利用は可能か、といった点を細かく確認します。

OSS/生成AI素材の取り扱いが定められている
オープンソースソフトウェアのライセンス順守や、生成AIで作成したコンテンツの第三者権利への配慮について、事前に合意しておくことが重要です。

リスク管理のチェック

□ **機密保持(NDA)**条項が適切である
目的外利用の禁止はもちろん、契約終了後の情報の返還・削除方法まで具体的に定められているか確認します。

□ **変更・解除(30日前予告の扱いと例外)**が法令に準拠している
フリーランス新法で定められた30日前予告ルールと、その例外事由が適切に反映されているか確認します。

責任の上限設定がある(推奨)
必須ではありませんが、間接損害の除外や、故意・重過失の場合の除外など、リスクを限定する条項があると安心です。

その他の重要事項

準拠法/管轄裁判所が指定されている
紛争時の解決方法が明確になっているか確認します。

□ **順序条項(優先順位)**が明記されている
本契約・個別契約・仕様書・見積書の間で矛盾が生じた場合、どれを優先するかが定められているか確認します。

再委託の可否・条件が明確である
再委託する場合の機密保持義務の伝達や、発注者の承諾要否などが定められているか確認します。

反社排除・コンプライアンス条項がある(あれば尚良し)
企業のコンプライアンス要件として現在は全ての契約書に基本的に反社条項を設定することが求められており、大手企業だけでなく中小企業との契約でも標準的に含まれる条項です。

ワンポイントアドバイス契約不適合責任(旧・瑕疵担保責任)の範囲と期間も、検収基準とセットで一文入れておくと、より安全な契約となります。「検収完了後3か月以内に発見された、仕様書との不適合についてのみ無償で修正する」といった具合です。


8-2. 交渉を成功させるコツ(テンプレート付き)

契約交渉は、対立ではなく「お互いにとって良い条件を見つける共同作業」と考えることが成功の秘訣です。以下、実践的なテクニックをご紹介します。

1) 不利な条項には必ず"代案"を添える

単に「この条項は受け入れられません」と言うだけでは、交渉は前に進みません。代わりに、以下のような建設的な代案を提示しましょう。

  • 無制限の損害賠償「直近6か月の支払総額を上限とし、故意・重過失の場合は除外」
  • 著作権の全面移転「成果物の著作権は譲渡します。ただし、汎用ライブラリ部分は受注者に留保し、ポートフォリオでの表示は許諾いただけますでしょうか」
  • 無償での無限修正「バグ修正は納品後30日間無償で対応します。仕様変更は追加見積とし、軽微な修正(1人日以内の作業)の定義も明確にしましょう」

2) 数字は"相互に"動かす(ギブ&テイクの精神)

一方的な要求ではなく、相互にメリットのある提案を心がけましょう。

  • 単価アップを求める代わりに → 納期短縮やレビュー回数削減、支払サイト短縮を提案
  • 責任上限の引き上げを求められたら → 総額のアップや保証期間の短縮を逆提案

このように、お互いが納得できるバランスポイントを探ることが重要です。

3) 合意内容は必ず"証拠化"する

口頭での合意は、後で「言った・言わない」のトラブルになりがちです。メールやPDFでの最終確認を必ず残しましょう。チャットだけでのやり取りは、ログが流れてしまう可能性があるため避けることをお勧めします。

また、順序条項を活用して、仕様書と契約条文が矛盾した場合の優先順位を明確にしておくことも重要です。

交渉メールの例文(そのままコピペして使えます)

件名:契約条件の一部調整のお願い(責任限定/検収基準)

〇〇株式会社 〇〇様

お世話になっております。
契約条件について、以下2点のみ調整をご提案させていただきたく、ご連絡いたしました。

1) 損害賠償の上限設定
   直近6か月の支払総額を上限とさせていただき、故意・重過失の場合は除外とする

2) 検収基準の明確化
   納品後5営業日以内に合否のご連絡がない場合は、検収合格とみなす

いずれも、プロジェクト運用の確実性向上と、リスク分担の明確化を目的としたものです。
貴社にとってもメリットのある内容かと存じますが、ご確認のうえ、可否をご教示いただけますでしょうか。

ご検討のほど、よろしくお願いいたします。

8-3. 契約後の管理ポイント(運用まで面倒見切る)

契約締結がゴールではありません。むしろ、契約後の適切な管理こそが、トラブルを防ぎ、円滑なプロジェクト遂行を実現する鍵となります。

書類の一元管理(電子帳簿保存法も意識して)

契約関連書類は、後から参照することが多いため、体系的な管理が不可欠です。原本(締結済みPDF)、見積書、仕様書、検収書、請求書を同一フォルダでバージョン管理することをお勧めします。

フォルダ構成の例:

/Contracts/2025-08_〇〇社/
  ├── 2025-08-22_基本契約_v1.pdf
  ├── 2025-08-22_見積書.pdf
  ├── 2025-08-22_仕様書_v1.pdf
  └── 請求書/

ファイル名には検索要件(日付・相手先・金額)を満たす情報を含め、後から探しやすい命名規則を決めておきましょう。エクセルなどで管理台帳を作成しておくと、さらに便利です。

支払期日の自動リマインド設定

カレンダーアプリを活用して、検収期限・請求日・支払期日を登録し、7日前と前日に通知が来るよう設定しておきます。これにより、重要な期日を見逃すリスクを大幅に減らせます。

支払いが期日を超過した場合のリマインドメールのテンプレート:

お世話になっております。
○月○日付でお送りした請求書(No.□□□)について、
ご入金状況をご確認いただけますと幸いです。
行き違いでご入金済みの場合は、ご容赦ください。

更新・終了の"30日前通知"の準備

長期契約の場合、更新や終了の意思表示を30日前に行う必要があります。通知文書のドラフトを事前に用意しておくことで、スムーズな手続きが可能になります。

通知文書の例:

本契約は〇年〇月〇日をもって満了となりますが、
引き続き契約の更新を希望いたします/契約終了の意思表示をいたします。
つきましては、必要な手続きについてご教示ください。

プロジェクト終了時のクローズ作業

プロジェクトが終了したら、以下の作業を確実に行います:

  • アクセス権の棚卸しと削除:リポジトリ、クラウドサービス、VPNなど、全てのアクセス権限を確認し、不要なものは削除
  • 返却物・データ削除の証跡を残す:機密情報の削除完了報告書を作成し、提出
  • 最終的な成果物の引き渡し確認:ソースコード、ドキュメント、その他の成果物が全て引き渡されたことを文書で確認

インシデント対応の線引き

保守フェーズでは、以下の分類と対応時間を明確にしておきます:

  • バグ対応:契約で定めた無償対応期間内かどうか
  • 仕様変更:追加見積もりが必要な案件として扱う
  • 緊急対応:SLA(サービスレベルアグリーメント)に基づく初動時間
    • Critical:4時間以内
    • High:1営業日以内
    • Medium:3営業日以内 注意:これらの対応時間は一般的な企業体制を想定した例です。フリーランス個人の場合は、実際の稼働体制(平日昼間のみ、休日対応の可否等)を考慮して現実的な時間設定に調整することが重要です。無理な設定は契約違反リスクを高めるため、事前に十分検討しましょう。 連絡チャネルも、緊急度に応じて使い分けることが重要です(緊急時は電話、通常はメールなど)。

実務メモ:**検収→請求→支払い(60日以内)**の3点セットは、ワークフロー化しておくと漏れが防げます。タスク管理ツールやプロジェクト管理ツールを活用して、各フェーズの完了を確実に管理しましょう。

これらのチェックリストと管理手法を活用することで、契約に関する不安を解消し、本来の開発業務に集中できる環境を整えることができます。最初は手間に感じるかもしれませんが、一度仕組み化してしまえば、その後の案件でも同じプロセスを適用できるため、長期的には大きな時間の節約につながります。 契約管理は、フリーランスエンジニアとしてのプロフェッショナリズムを示す重要な要素でもあります。きちんとした管理体制を持っていることで、クライアントからの信頼も高まり、より良い条件での案件獲得にもつながるでしょう。


9. コピペ用:ミニ雛形(抜粋)

実際に使える契約書の雛形を、書き換えやすい形で提供します。これは最小限の要素だけを含む"芯"の部分ですので、案件に応じて肉付けしてください。なお、3条通知の8項目は必ず事前にメール等で送付することを忘れないでください。

# 業務委託基本契約(ミニ版|2025対応・3条通知兼用)

**発注者**:____(名称・住所)  
**受注者**:____(氏名/名称・住所)  
**業務委託をした日**:__年__月__日(※3条通知(1)(2))  
**契約開始日**:__年__月__日

---

## ◆ 3条通知(取引条件の明示)※本契約書は以下の8項目の明示を兼ねます
1. **発注事業者・フリーランスの名称**:上記記載のとおり  
2. **業務委託をした日**:上記記載のとおり  
3. **給付(役務)の内容**:第1条参照  
4. **給付を受領する期日/役務の提供を受ける期日**:第1条・第3条参照  
5. **給付を受領する場所/役務の提供を受ける場所**:第1条参照  
6. **検査完了期日(検査がある場合)**:第3条参照  
7. **報酬の額および支払期日**:第2条参照  
8. **報酬の支払方法(現金以外で支払う場合のみ)**:第2条参照  

> 電子的な方法で本契約を明示・締結した場合であっても、受注者から**書面交付の求め**があれば、発注者は遅滞なく書面を交付する。

---

## 第1条(業務内容・場所・提供期日)
受注者は、**別紙A(仕様・スコープ)**に基づき、__の開発・改修業務(以下「本業務」)を行う。  
1. **業務内容**:別紙Aに詳述(**含む事項/含まない事項**を明示)。  
2. **役務の提供期日**:__年__月__日(またはスプリントごとの期日表による)。  
3. **提供場所**:リモート/__(所在地)/その他:__。  
4. **作業環境・前提**:VPN/MFA 必須 等。  

> 範囲外(例):インフラ運用、CS対応、____ など。必要に応じて別紙で明確化。

## 第2条(報酬・支払)
1. **報酬**:__円(または**時間単価**__円、月額__円、上限__時間/月 等)。  
2. **支払期日**:**給付受領日(=第3条の検収合格日)から__日以内**とし、**60日以内**の範囲で具体日を定める。  
3. **支払方法**:銀行振込(__銀行__支店/口座__)。  
   - 現金**以外**で支払う場合の方法・要件:__(例:振込/送金サービス 等)。  
4. **遅延利息**:年__%。手数料負担:__側。  

## 第3条(検査・検収)
1. 受注者は成果物を納品し、発注者は**__営業日以内**に合否を通知する。  
2. 不合格の場合、受注者は合理的期間内に是正し、再検査を行う。  
3. **検査完了期日**:__年__月__日(スケジュール表がある場合はその期日)。  
4. 期限までに合否の通知がない場合は**合格(検収完了)とみなす**。
 この**検収完了日を請求起算日とする**。

## 第4条(知的財産)
1. 成果物の**権利帰属**:__(例:発注者に帰属。受注者はポートフォリオ用途の表示許諾あり)。  
2. **著作権の譲渡**を行うときは、**著作権法27条・28条**の権利を含めて譲渡し、**著作者人格権不行使**の範囲を定める。  
3. **OSS/生成AI**の利用はライセンス遵守・出典管理を行う。

## 第5条(秘密保持)
目的外利用・第三者提供を禁止し、終了時は返還・削除する。再委託先にも同等の義務を課す。

## 第6条(変更手続)
仕様変更は、**チケット合意 → 影響分析・追加見積 → 書面(メール)合意 → 実装**の順で行う。軽微修正(1人日以内 等)の定義は別紙で定める。

## 第7条(契約期間・解除)
1. 期間:__年__月__日から__年__月__日まで。  
2. 双方は、やむを得ない事由を除き、**30日前予告**により解除/不更新ができる(法定の例外事由がある場合を除く)。

## 第8条(責任の範囲)※推奨の防御条項
1. 当事者の**故意または重過失**による損害を除き、責任上限は**直近6か月の支払総額**とする。  
2. **逸失利益・間接損**は除外する。

## 第9条(準拠法・管轄)
日本法を準拠法とし、__地方裁判所を**専属的合意管轄**とする。

---

### 【任意付記】再委託に関する明示(該当する場合のみ)
- 本件が**再委託**である旨:はい/いいえ  
- **元委託者の名称**:__  
- **元の支払期日**:__年__月__日

> 上記は3条通知の**条件付き追加明示**に対応(該当時のみ追記)。

この雛形の使い方

この雛形は、あくまでも出発点として活用してください。実際の案件では、以下のような点を追加・修正することが必要になるでしょう。

プロジェクトの特性に応じた追加条項

  • アジャイル開発の場合:スプリントの定義、バックログ管理の方法
  • 保守案件の場合:SLA、対応時間、エスカレーションルール
  • 機密性の高い案件:より詳細なNDA条項、監査への協力義務

技術的な要件の明記

  • 使用言語、フレームワーク、ライブラリのバージョン
  • 開発環境、テスト環境、本番環境の仕様
  • コーディング規約、ドキュメント作成基準

コミュニケーションルールの設定

  • 定例会議の頻度と形式
  • 進捗報告の方法とタイミング
  • 緊急時の連絡体制

この雛形をベースに、クライアントとの対話を通じて、お互いにとって最適な契約書を作り上げていくことが重要です。

まとめ:契約書は自分を守る最強の武器

ここまで、フリーランスエンジニアが知っておくべき契約書の作成方法と、フリーランス新法への対応について詳しく解説してきました。

契約書の作成は面倒に感じるかもしれません。しかし、これは自分の時間、スキル、そして生活を守るための最も重要な投資です。最初は時間がかかるかもしれませんが、一度しっかりとした雛形を作っておけば、その後の案件では効率的に契約を進めることができます。

特に重要なのは、3条通知の項目を必ず事前に明示すること支払期日を60日以内に設定すること、そして自分のリスクを適切にコントロールする条項を盛り込むことです。

フリーランスという働き方は、自由度が高い反面、自分で自分を守る必要があります。契約書はそのための最強の武器となるのです。


次の一歩:契約の不安を"実務で"解消しよう

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初回公開日2025.9.4
更新日2025.9.11

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